2023.09.28「地質調査技士は将来性がある!ボーリング調査などの調査手順も解説」
「地質調査ってどういった仕事か知りたい」 「地質調査業界の将来性が知りたい」 地質調査業界に就職を検討している方の中には、上記のような疑問を持っている方も少なくありません。 地質調査は地盤や地質などの調査をする非常に重要な仕事である一方で、馴染みのない方が多く将来性に懸念を持たれやすい仕事でもあるためです。 しかし、土砂災害や地震が多い日本では防災面から重要性が増しており、今後も調査需要が高まることが予想される将来性のある業界といえます。 経済が停滞しているこの日本において、おすすめできる業界のひとつです。 そのため、この記事では地質調査の基礎知識やボーリング調査、地質調査業界の将来性について未経験者にもわかるように解説しています。 地質調査の仕事に興味を持っている方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
地質調査とは?
地質調査とは、土地の地質や土質、地下水、基礎地盤などの形状や質、量を調査するもので目的別に以下の3つに分けることが出来ます。 ・ 学術的分野 ・ 資源開発分野 ・ 建設事業分野 それぞれについて説明します。
■学術的分野
学術的分野での地質調査は、地質学の深化や地震予知の研究など、学問を進展させる目的で行われます。 具体的には、科学的知識の蓄積や新しい発見を目指し、地球の歴史や構造、プロセスを理解しようとするものです。 このため、主に国や大学、研究機関からの依頼が多く、当然ながら成果は学問の発展や社会の安全に寄与します。
■資源開発分野
資源開発分野における地質調査とは、石炭、石油、鉱物資源などの潜在的な地下資源を発見、評価、開発するための調査を指します。 これらの資源は、私たちの生活や産業活動において極めて重要な役割を果たしており、その確保と管理は国や企業にとって重要な課題です。 とはいえ、石炭、石油、鉱物資源などの潜在的な地下資源を見つけることを主目的としていたのは1960年ごろまでになります。 1960年ごろまでは、各地で活発に探査や調査が行われており、多くの地下資源が発見されました。 そして、それらの資源の開発と利用が進められたのです。 しかし、現代では従来の資源探査の活動は減少し、代わりに地熱発電の調査が主流となっています。 地熱発電の調査は、地球の内部熱を利用して発電を行うためのもので、再生可能エネルギー源として注目されたためです。 資源が乏しい日本では、地熱エネルギーは化石燃料に依存しない持続可能なエネルギー供給手段と考えられ、エネルギー政策の一環として推進されています。 このように、形こそ変わりましたが、資源開発分野での地質調査は、地球の持つ豊富な資源を探し出し、評価し、効果的に利用するための基礎研究として、今でも我々の生活や経済活動、環境保全において重要な位置を占めています。
■建設事業分野
建設事業分野における地質調査とは、国土の持続可能な開発や保全を重視し、あらゆる種類の建設プロジェクトにおいて安全性や効率性を確保するために実施される一連の詳細な調査活動のことを指します。 ビル、橋、住居などの建築物の設計と建設において、最も基礎となる工程であり、これによって構造物の安全性や持続可能性を確認する重要な調査です。 具体的には、地盤調査、液状化調査、土壌汚染調査など、様々な環境的調査を包括的に実施します。 これらの調査を通じて、建築物の安全性、土地の利用可能性、災害の危険性などを詳細に評価、それに基づいて最適な建設計画が立てることが可能です。 現在、日本における地質調査の大部分、つまり約9割がこの建設事業分野において行われており、国内の地質調査技士の多くが、この分野での調査を専門に行っています。 このように、建設事業分野での地質調査は、持続可能で安全な社会の構築に向けて、基礎的かつ不可欠な作業です。 その作業を行う地質調査技士たちは重要な任務を担っており、専門的知識と技術によって私たちの生活基盤を支えてくれているとも言えます。
地質調査技士の業務内容や仕事の流れ
地質調査技士とは、地質調査を行う際に必要なボーリング調査や各種の計測、試験などを工事現場で行う技士者の能力を認定したものです。 資格を習得することで建築関連会社や地質調査会社などに転職しやすくなります。 では、地質調査技士はどういった業務を行っているのでしょうか? 業務内容は現場でのボーリング操作や安全管理、地質の計測や試験など多岐に渡ります。 ここでは、地質調査技士がよく行うボーリング調査や仕事の流れについてより詳しく説明していきます。
■ボーリング調査とは?
ボーリング調査とは標準貫入試験とも言われるもので、地面を掘りながら土を採取して地盤の強さや土の密度、地盤種類、地盤の液状化の状況などを調査するものです。 大規模マンションの建築などの民間事業やトンネル、道路といった公共事業まで、多くの場所でボーリング調査を行われています。 ボーリング調査を行うことで地盤が建物を支えるだけの強度があるのか、液状化する危険性がないかなど建物の安全性を保つためのデータを調べることが可能です。
地質調査技士の仕事の流れ
よく勘違いされがちですが、地質調査技士は現場でボーリング操作を行うだけの仕事ではありません。 具体的には以下のような流れで仕事を行っています。 1. 地質調査を行う前に地形図や地盤図などの資料から調査地域周辺の情報を集める 2. 実際に現地を歩いて現地の情報を集めて資料との差異などを確認する 3. 必要な場合は物理探査を行い地質の構造を調べる 4. ボーリング調査を行う前に現場の安全管理や工程管理などの計画を立てる 5. ボーリング調査を行って地盤や地質のデータを採取する 6. 調査したデータを調査地域に建築予定の構造物の設計時に必要な数値などを分析してデータを図面や必要な資料にまとめる 7. まとめたデータから危険性などを報告出来るように報告書を作成する 上記のように地質調査技士は現場作業だけでなく、分析や資料の作成などオフィスワークも多い仕事です。 また、現場の工程管理や現場スタッフの指示出しなど、マネジメント能力も必要になる仕事になります。 ただし、詳しい仕事内容は会社によって異なり、ボーリング操作をしない会社もあるため、詳しい仕事内容が気になる方は就職を検討している企業に確認するようにしてください。
地質調査技士になるために必要な資格
地質調査技士の資格には、以下の3つの部門があり、合格率は「40%」以下です。 ・現場調査部門 ・現場技術・管理部門 ・土壌・地下水汚染部門 下記にそれぞれの試験内容について表にまとめているので参考にしてみてください。
【現場調査部門】
試験名 | 概要 | 科目 |
筆記試験 | 四肢択一式問題:80問 | ①社会一般、建設行政、入札・契約制度等の知識 ②地質、測量、土木・建設一般等の知識 ③現場・専門技術の知識 ④調査技術の理解度 ⑤管理技法 |
記述試験 |
記述式問題:1問または2問 |
ボーリング作業、工程・安全・品質の管理 |
口頭試験 | 試験と対面式で行う | ボーリング調査を行なう上で必要な知識、経験 |
【現場技術・管理部門】
試験名 |
概要 |
科目 |
筆記試験 | 四肢択一式問題:100問 |
①社会一般、建設行政、入札・契約制度等の知識 ②地質、測量、土木・建設一般等の知識 ③現場・専門技術の知識 ④調査技術の理解度 ⑤解析手法、設計・施工への適用 ⑥管理技法 |
記述試験 | 記述式問題: 2問 |
①倫理綱領に関する問題 ②地質調査技術等に関する問題 |
【土壌・地下水汚染部門】
試験名 |
概要 |
科目 |
筆記試験 | 四肢択一式問題:100問 |
①社会一般、建設行政、入札・契約制度等の知識 ②地質、測量、土木・建設一般等の知識 ③現場・専門技術の知識 ④調査技術の理解度 ⑤管理技法 |
記述試験 | 記述式問題: 2問 |
①倫理綱領に関する問題 ②土壌・地下水汚染調査の計画や現場技術、修復技術に関する問題 |
出典:地質調査技士とは? 検定試験 受験資格 登録更新制度 一般社団法人 全国地質調査業協会連合会
地質調査技士の資格取得を検討している方は参考にしてみてください。
なお、土壌地下水部門は令和4年度以降休止しており、現在受験できません。
関連資格として国家資格の土壌汚染調査技術管理者の資格試験があります。
試験内容を表にまとめたのでご確認ください。
試験名 | 概要 | 科目 |
筆記試験 | 筆記試験(択一式マークシート方式) |
① 土壌汚染の調査に関する技術的事項 ② 土壌汚染の対策並びに汚染土壌の搬出、運搬及び処理に関する技術的事項 ③ 土壌汚染対策法その他環境関係法令に関する事項 |
災害をきっかけに地質調査が実施されて事例
災害をきっかけで地質調査が実施される事例も多いです。
ここでは、豪雨災害で実際に地質調査を実施した事例を2つ紹介します。
九州北部豪雨による崩壊斜面の地質調査事例
九州北部地方は、平成29年7月5日から6日にかけて、梅雨前線の影響を強く受け、記録的な豪雨に見舞われました。
この記録的な豪雨は「平成29年7月九州北部豪雨」と呼ばれ、河川の氾濫や土砂災害によって、地域全体が甚大な被害を被ってしまいました。
現在は、被害を繰り返さないためにと地質調査が実施され、安全確保と災害リスクの評価のため、迅速かつ正確な地質調査が行われ、土壌の種類、地下水の状況、地質構造など、多岐にわたるデータが収集されています。
熱海で起こった土砂崩れと地質調査の関係
2021年7月3日の記録的豪雨に起因して静岡県熱海市で起こった土砂崩れによって、多くの方が巻き込まれて亡くなってしまいました。
この熱海市の土砂崩れは河川上流付近にあった盛り土が崩れた影響で発生している可能性があり、赤羽国土交通相も「全国の盛り土を総点検する方向で考えたい」と発言。
その後、全国で地質調査が実施されています。
このような大きな災害は度々発生しており、被害が発生する度に地質調査の需要は高まってきました。
ゲリラ豪雨や台風などの被害が多い日本では、今後も土砂災害の予防などの地質調査の需要がますます高まっていくことでしょう。
地質業界の今後
地質調査の需要は年々高まっています。
2011年の東日本大震災や2018年の北海道地震で液状化現象が発生していることや、熱海市の土砂災害など数多くの災害が発生したことにより、防災面での地質調査の重要性が増加しているためです。
さらに、トンネルや橋といった公共インフラの老朽化も進んでおり、こういったインフラの修繕や建て直しのための地質調査の需要も増えています。
このように、将来的に地質調査の需要が少なくなる可能性は低いと考えられるため、地質調査技士の重要性はより高まることが予測されます。