2022.08.25住宅を建てる際の地質調査業者の選び方や注意点を徹底解説
住宅を建てる際は、「建築基準法施行令第38条」で地質調査が義務付けられています。
また地質調査を行うことで地盤の強さを把握できるため、地盤の緩い土地の購入を防ぐことも可能です。
このため、土地の購入や住宅の建築には地質調査が欠かせません。
しかし、一言に地質調査といっても、調査目的や調査方法はさまざまな種類があるうえに調査会社の数も多いため、調査方法や業者の選び方を理解しておかないと正確な地質調査の実施は不可能です。
そこで、この記事では、地質調査の基礎的な知識を踏まえながら、地質調査業者の選び方や依頼する際の注意点について解説していきます。
これから住宅を建てることを検討している方は、この記事を参考にしてください。
地質調査の調査目的
地質調査には「住宅やビルを建設するための調査」や「地震など自然災害の防災目的に行う調査」など、さまざまな目的での調査があります。
目的によって行う調査が異なるので、まずはどのような目的で地質調査が行われているのかを知っておくようにしましょう。
住宅などの建物を建てるため
住宅やマンションなどの建物を建てる際は、地盤調査を必ず実施しなければなりません。
「建築基準法施行令第38条」によって義務付けられているためです。
しかし、義務付けられているだけが理由ではありません。
地盤調査を実施することで、「その土地がどの程度の重さに耐えられるのか」、「地震によって地盤が傾く可能性があるか」といった建築するために必要な情報や、住宅などを建てようしている土地のリスクを知ることができるのも地質調査を実施するべき理由です。
したがって、土地を購入する前に地盤調査を実施するのがベストなタイミングと言えるでしょう。
なお、地盤調査の中で最も行われている調査は、住宅やマンションを建てる際の地盤調査です。
実際、多くの地質調査業者が地盤調査をメイン事業としています。
自然災害に対する防災のため
地震や台風、豪雨などによって生じる可能性がある「地すべり」や「液状化現象」などの自然災害の危険性を調べるためにも地質調査は使われています。
例えば、自然災害の危険性を把握できるハザードマップは地質調査の調査結果が基です。
なお、このような防災目的の地質調査は近年自然災害が増えていることで重要性が増しており、実施されることが増えてきている調査でもあります。
トンネル整備などの維持管理のため
トンネルや高速道路などのインフラ建造物の点検調査のためにも、地質調査は行われています。
インフラ建造物を建設した当初に行った地質調査から、情報が大きく変わっている可能性があるためです。
また、老朽化によって修繕や建て替えが必要な場合には、周辺の地質を調査して工事が与える影響を考える必要があるのも一つの理由になります。
なお、インフラを維持するための調査も、公共インフラの老朽化が進んでいることで近年増えてきている地質調査の一つです。
土壌や地下汚染を把握するため
地質調査を行うことで土壌や地下汚染の状況を把握することも可能です。
実際、工場の排水による土壌汚染や東日本大震災によって発生した福島原発事故による放射能汚染の影響を把握するためにも実施されています。
ただし、他の調査よりは調査頻度が高いものではないため、実施数は多くありません。
地中熱・地熱を資源化するため
地中熱や地熱を対象とした調査も行われています。
とはいえ、他の調査と比較すると実施数は多くありません。
正確には、1960年頃までは石炭などの鉱物資源を確保する目的で資源目的の調査は活発に実施されていましたが、現在も資源目的の調査を行っている会社は非常に少数派です。
地盤調査や地質調査で分かること
地盤調査や地質調査を行うことで、以下の内容がわかります。
- 切土や盛り土、埋立地などの調査する土地の地盤の構成がどうやって作られているかを知れる
- 地盤の強度が把握できる
- 地盤の支持力が把握できる
- 土の粒子の大きさ・混ざり具合などの土質が把握できる
- 土・砂・岩盤などの地層が把握できる
- 地下水の水位が把握できる
- 地震の揺れによって地盤が液状化しやすい土地かどうかを把握できる
上記のように、調査した土地の地盤や土質などを詳細に調べられるので、地盤が地震などによって建物に与える影響を把握できます。
住宅を建てる際に地盤調査を行うことが義務付けられている
前述したように、住宅を建てる際の地盤調査は建築基準法によって義務付けられています。
地震によって家が倒壊することがないようにするためには、家などを建てる際の地耐力を調べる必要があるためです。
なお、地盤調査が義務付けられた背景には、2000年に起きた阪神・淡路大震災があります。
阪神・淡路大震災によって家屋が約10万5,000棟全壊、約14万4,000棟半壊、死者も6,434名にものぼる甚大な被害が発生したため、家などを建てる際に地耐力を調べることが建築基準法上で求められるようになりました。
地盤調査を行うメリット
地盤調査は建築基準法で義務付けられていなくても行うべき調査です。
調査を行うことで多数のメリットが得られるため、「実施さえすればそれで良い」というものではないことを覚えておくようにしましょう。
不同沈下が発生するリスクを軽減できる
地質調査を実施することで、地盤が歪み生じる不同沈下のリスクを軽減できます。
地盤の強度不足や腐植土層があるなどの不同沈下が生じる原因を把握できるためです。
仮に不同沈下が起きてしまうと、建物が傾いて壁にひびが入るなどの建物にさまざまな不具合が発生してしまい、最悪のケースでは家に住みづらい環境になって引っ越さざるを得ない事態になりかねないため、不同沈下のリスクを軽減できるのは非常に大きなメリットと言えます。
なお、地質調査を行って地盤に問題があると判明した場合は、地盤改良工事を行わなければいけません。
地盤改良工事を行うことで不同沈下が生じるリスクを大幅に軽減できるため、地質調査を実施した結果、問題があると判明した場合は、費用がかかりますが地盤改良工事を行うようにしましょう。
地震によって家が傾くリスクを軽減できる
地質調査を実施することで、地震によって家が傾くリスクを軽減できます。
調査した土地の地盤の強度を把握できるため、問題がある場合は地盤改良工事を実施できるためです。
仮に地盤調査が不十分になってしまい、地盤に問題がある状態で住宅を建設してしまうと、地震によって建物が傾き損傷や倒壊を起こしかねません。
実際、阪神淡路大震災や東日本大地震では、多くの住宅が傾いたり倒壊したりしたことで、甚大な被害が発生しました。
このような地震による住宅が損壊するリスクを軽減するためにも、住宅を建てる際は適切に地盤調査を行うようにしてください。
液状化現象によって家が沈むリスクを軽減できる
地質調査を実施することで、液状化現象が起きるリスクを把握することが可能です。
仮に液状化現象が起きてしまうと住宅が沈んで傾いてしまいかねないため、このことも大きなメリットと言えます。
ちなみに、地質調査以外では、市区町村やホームページで確認できる「ハザードマップ」で、住宅を建てる予定地の液状化現象の危険性が確認できます。
土地を購入して住宅を建てようと検討している方は、購入する前にハザードマップを確認して、その土地の危険性の有無を確認するのもいいでしょう。
なお、海を埋め立てることでできた土地や過去に液状化現象が発生した土地では、他の土地よりも液状化現象が発生する可能性が高いことも知っておいてください。
建築する際に地盤調査をするタイミング
新築住宅を建てる手順は以下のとおりです。
- 地盤調査
- 地鎮祭
- 地盤改良工事(必要な場合)
- 基礎工事
- 建て方
- 上棟式
- 屋根・外壁下地・外装工事
- 内外装工事・内部建具工事
- 仕上げ
- 竣工検査
- 補修工事(必要な場合)
- 引き渡し
上記の手順からも分かるとおり、地盤調査は建物の建築前に実施します。
ただし、売主に同意が得られれば、土地を購入する前でも地盤調査が可能です。
仮にその土地の地盤に問題があった場合には購入を見送ることもできるので、可能な限り土地を購入する前に地盤調査を行いましょう。
地質調査の方法
住宅を建築する際の地質調査方法には、「ボーリング調査」や「SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)」といった複数の方法があります。
調査方法によって特徴が異なるため、自身に適した調査方法を選ばなければいけません。
そのため、ここでは住宅を建てる際に使用する地質調査の調査方法について詳しく解説します。
それぞれの違いについて、解説した内容をよく理解するようにしてください。
ボーリング調査
地盤調査で行われるボーリング調査は地面を円筒形の穴を開けるように掘削して土を採取、地盤の強度や構造、土質などを調べる工事です。
主にマンションやビルなど一般的な住宅よりも規模が大きな建物を建てるときに行われることが多い調査方法になり、以下のメリット・デメリットがあります。
【メリット】
- 硬い地盤でも調査が可能
- 深い地層でも調査が可能
- 土を採取できるので詳細な地盤や土質の調査ができる
- 広い土地の調査に向いている
【デメリット】
- 他の調査方法よりも費用が高い
- 広い調査スペースが必要
- 機械音や打撃音など音が大きい
- 他の調査方法よりも調査期間がかかる
なお、ボーリング調査は調査したい土地の地盤を詳細に調査したい方に向いている調査方法です。
SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)
SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)とは、先端がスクリューになっているロッドを地盤に垂直に突き刺し、その沈み方から地盤の硬さや締まりなどを調べる方法です。
一般的な住宅を建築するときに多く用いられている調査方法になります。
SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)のメリット・デメリットは以下の通りです。
【メリット】
- 調査時間が短く済む
- 費用がボーリング調査よりも安い
- 狭小地と傾斜地でも調査が可能
【デメリット】
- 土を採取しないため土質判定ができない
- 硬い地盤に不向き 深部までの調査が不可能
- 規模が大きくなるとボーリング調査よりもデータの信頼性が低い
上記のように、ボーリング調査よりも安価に調査できるため、詳細な調査が必要ない場合はSWS試験(スクリューウエイト貫入試験)がおすすめです。 ちなみに、SWS試験は「旧スウェーデン式サウンディング試験」のことで、2020年10月から「スクリューウエイト貫入試験」に正式名称が変更されています。
表面波探査法
表面波探査法は地面を専用装置で振動させ、その振動を計測、振動が伝わる速度によって地盤の強度を調べる調査方法です。
SWS試験よりも精度が高い調査ですが、調査費用が高くなってしまいます。 とはいえ、ボーリング調査よりも費用は安いので、SWS試験より正確に地盤強度を知りたいという方は表面波探査法を検討してみましょう。 なお、表面波探査法もSWS試験と同様に、マンションなどの大規模な土地の調査には向いていません。マンションなどを建てる際は、ボーリング調査を実施しましょう。
住宅を建てる際の地盤調査にかかる費用相場
地質調査の依頼を検討する際、地盤調査にかかる費用相場を把握しておくことは非常に重要になります。住宅を建てるためには多額の費用が必要になるため、調査にかかる費用を把握できると建物を建てる際の計画がより緻密になり、資金不足に陥ることを防げるためです。 ここでは、調査方法ごとの費用相場について解説していくので、地質調査の実施を検討する際の参考にしてください。
SWS試験の費用相場
SWS試験は地盤調査の中で最も安価な調査方法です。
費用相場は一般的な住宅の敷地面積であれば、「5~10万円程度」で調査を行えます。
このため、地盤調査費用を可能な限り抑えたい方におすすめの調査方法です。
表面波探査法
表面波探査法の費用相場は、SWS試験とボーリング調査の中間程度価格になります。
費用相場、一般的な住宅の敷地面積では「8~12万円程度」です。
SWS試験よりも調査費用がかかりますが、地盤調査の精度は高いため、多少費用がかかってもより精度の高い調査をしたい方には表面波探査法をおすすめします。
ボーリング調査
ボーリング調査の費用相場は、「15万〜30万円程度」です。
他の調査方法より調査にかかる費用が高額ですが、他の調査方法と違って土質まで調査できる点や、広い土地の調査に向いている点など、他の調査方法にはないメリットがあります。
詳細な地盤調査をしたい方や、マンションなど規模の大きな建物を建てようとしている方におすすめの地盤調査の方法です。
住宅を建てる際に地質調査を依頼するときの注意点
住宅を建てる際に地質調査を依頼するときの注意点は複数あります。
しかし、注意点を理解しておくことで適切な地盤調査が可能になるため、それぞれ理解しておくようにしましょう。
住宅の地盤調査が得意な地質調査会社を選ぶ
地質調査会社に依頼する際に最も重要なポイントは、住宅の地盤調査が得意な地質調査会社に依頼することです。
地質調査を行う目的はさまざまで、地質調査会社によって得意な調査が異なるためです。
例えば、住宅を建てるために地質調査を依頼したいのに、地熱などの資源的な調査を主に行っている会社に依頼してしまうと、スムーズに調査できないだけでなく正確な調査ができない可能性もあります。
このような事態を防ぐためにも、住宅の地盤調査が得意な地質調査会社に依頼をするようにしてください。
なお、ホームページで調査実績を確認することで、地質調査会社がどの調査を得意としているのかを把握できます。
地盤調査報告書を発行してもらう
地盤調査報告書とは、地盤調査で調査した地盤の詳細な情報が記載されている、地盤調査を行った証明書になる書類です。
住宅を建てる際は地質調査会社に依頼して、地盤調査報告書を発行してもらうようにしましょう。
仮に住宅を売却することになった際、土地の地盤に問題がないことを証明できれば耐震性に問題がない住宅だと判断してもらえるため、地盤調査報告書がない住宅よりも売却しやすくなります。
また、地質調査報告書を受け取り忘れると、売却時に地盤に問題がないという証明ができなくなるので、忘れないようにしてください。
敷地面積や地質によって費用が高額になる可能性がある
地盤調査の費用は調べる土地の敷地面積や地質によって異なり、「調査したい土地が広い場合」や「硬い地質の場合」には相場よりも高額な費用がかかります。
また、地質によってはSWS試験が実施できないケースもあり、その場合はボーリング調査を実施せざるを得ません。
SWS試験よりボーリング調査の方が高額になるので、その可能性も理解しておきましょう。
依頼する地質調査会社を選ぶポイント
地質調査を依頼する際は、地質調査会社を選ぶポイントを理解しておかなくてはいけません。
適当に信頼性が低い悪質な地質調査会社に依頼をしてしまうと、正確な調査ができない可能性があるためです。
そのような会社に依頼しないためにも、以下で解説している内容をよく理解して地質調査会社を選ぶようにしましょう。
依頼する地質調査会社の実績を調べる
依頼を検討している地質調査会社の実績を、事前に調べて確認しておくことが地質調査会社を選ぶうえで重要です。
実績が豊富な会社は豊富な経験や多くのノウハウを持っているため、信頼性の高い調査を行ってくれる可能性が高いためです。
しかも、想定外のトラブルが発生しても、適切な対応が期待できます。
正確な地質調査を行うためにも、可能な限り実績がある会社に依頼するようにしましょう。
相見積もりをする
地質調査会社に依頼する際は、相見積もりを行うことも重要なポイントになります。
相見積もりを取ることで費用を抑える効果が期待できるうえに、地質調査会社の対応も比較できるためです。
ただし、値段が安いからといって安易に依頼をしてしまうと、信頼性の低い地質調査会社に依頼してしまい、正確な調査がされない危険性があります。
そのため、見積もりの金額だけでなく、実績も確認したうえで会社を選ぶようにしましょう。
地質調査技士が在籍している会社を選ぶ
地質調査会社に依頼する際は、地質調査技士が在籍している会社に依頼するようにしてください。地質調査は専門性の高い知識が必要なため、専門家である地質調査技士が在籍している会社は信頼できる会社である可能性が高いためです。 正確な地質調査を行うためにも、地質調査技士が在籍しているのか確認するようにしましょう。
まとめ
住宅の建設時の地盤調査を行う際は、住宅の地盤調査が得意な会社に依頼することが重要です。
とはいえ、一言に地質調査と言ってもさまざまな種類があり、それらを理解しておかなくては最適な会社に依頼することはできません。
そのため、この記事では、地質調査の基礎的な知識を踏まえながら、地質調査業者の選び方や依頼する際の注意点について解説してきました。
住宅を建てる際に地質調査の依頼を検討している方はこの記事を参考にしてみてください。